スポーツになぜ姿勢が重要か|スポーツの視点から姿勢を再考する
「姿勢を正せ」「胸を張れ」「下を向くな」「猫背になるな」など、姿勢はスポーツに関わらず誰もが注意されたり、意識したことがあると思います。
しかし、なぜ姿勢が大事なのか。
スポーツにおいて、姿勢が悪いとなぜいけないのか。
それを教えてもらったことはあるでしょうか。
見た目や周りが見やすくなるからとかではなく、ちゃんとしたスポーツパフォーマンスとしての科学的な理由を。
そして、『大事な場面で力が入る』、『動きが小さくなる』、『全力で走ると背中が丸くなる』そういった力みも姿勢との関係があります。
今回は姿勢とバランス能力、身体の緊張(力み)という視点で深掘りしていきます。
目次
首には姿勢制御に重要な筋肉がある
首にある後頭下筋群という筋肉をご存知でしょうか。
小後頭直筋、大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋の4つからなり、これらの筋肉は
筋紡錘という感覚受容器の密度が非常に高いことが知られています。
また、視覚や前庭覚と統合する固有受容器として中枢神経系と感覚運動制御に関与していることがわかっています。
簡単にいうと視覚や耳にあるバランスを司る部位と連携してバランス能力に関与しています。
そしてこの筋肉は姿勢が悪くなることで機能不全を引き起こします。
姿勢と首の関係
では、なぜ姿勢が悪くなると後頭下筋群が機能不全を引き起こすのか。
悪い姿勢を思い浮かべるとだいたい右側のような姿勢が浮かぶと思います。
頭頚部に着目すると、先程の後頭筋下筋群が縮こまったままの姿勢になります。
イメージしてほしいのですが、右側の頭頚部の位置を左側の姿勢で再現すると
常時上を見ているのと同じになります。
それぐらい右の姿勢は頭頚部に負担をかける姿勢なのです。
上を向いているということは、先程の後頭下筋群は相当縮こまったままのポジションを呈しているため
機能不全を引き起こすことは容易に想像できると思います。
ちなみに、筋肉にある感覚受容器(筋紡錘)は伸びる刺激に対し反応します。つまり縮こまったままでは伸ばされることがないため、反応しなくなります。
よって、姿勢が悪いと後頭下筋群は縮こまり機能不全を引き起こすことで、バランス能力の低下からパフォーマンス低下に繋がるため姿勢を正せと指導されるわけです。
首と眼球運動の関係
ここで、先程の後頭下筋群の機能不全がないか簡易的にチェックして見ましょう。
両方の手で先程の後頭部にある筋肉に触れるよう指先を当て、眼球を左右に動かしてみてください(右手は右側の筋肉を触知)。
眼球運動に合わせ、筋肉に収縮を感じることができるでしょうか(右を見ると右手に膨らみを感じる)。
問題なく収縮を感じることができれば、眼球運動と後頭下筋群の関係は保たれています。
ちなみに、問題無い方は収縮がはっきりと感じとれます。
なんとなくという方は、機能不全傾向です。
ここで大事なのが、眼球運動に合わせて後頭下筋群が働くという反射運動が身体には備わっているということです。
そして、逆も然りです。
頭頚部が傾くとそれに合わせて眼球も動きます。
当然ですが、人間の身体は頭部を水平に保つようにできています。
身体が傾いた際は
視覚(目)、前庭覚(耳)、体性感覚(筋肉や皮膚など)からの情報によって頭部が傾かないよう反射的に姿勢調整が行われます。
しかし、後頭下筋群が姿勢不良により適切に身体の傾きに対する情報を送れなくなると、バランス制御や眼球運動に支障をきたすわけです。
つまり、後頭下筋群の機能不全が生じるとバランス能力だけではなく、視覚情報にも影響を及ぼします。
最近ビジョントレーニングが流行っていますが、姿勢を改善せずにこのトレーニングを行っても十分に効果が引き出せてるとは言えません。
姿勢が悪いと力みやすい
本来であれば、頭部は背骨の真上に位置するため、首周りの筋肉を過度に緊張させる必要はありません。
しかし、上図の右側の様な姿勢では、頭が前方へ出ることで、胸鎖乳突筋や肩甲挙筋、僧帽筋上部線維が常に働くことで頭部を支えています。
この筋肉が常に働いているということは、常に力みが生じているということだけではなく
いつでもこの筋肉が強く働くためのスタンバイ状態になっていることが大きな問題となります。
私は陸上競技のトレーナーをしていますが、強い出力を出そうとすると肩に力が入り肩が上がってしまう選手を多くみてきました。
そして、肩周りに力が入ると、肩や腹部、股関節のインナーマッスルの働きが低下し、アウターマッスルの活動が強くなるため、力づくで走るようなフォームとなります。
これは0.01秒を争う競技にとって致命的な欠点となります。
そういった選手の大半は普段の姿勢が悪いという特徴があり
まさに普段からの姿勢の悪さがパフォーマンスに悪影響を与えているということになります。
まとめ
姿勢は視覚、前庭覚、体性感覚の情報を統合しそれぞれが密接に関わって制御されています。
特に、不良姿勢は後頭下筋群の機能不全を引き起こし、眼球運動とバランス能力に悪影響を及ぼします。
また、不良姿勢は肩周りに力みを生じさせやすくなるため、大事な場面ほどパフォーマンスを低下させる可能性があります。
よって、スポーツをしていない時でも姿勢が重要となるわけです。
ただし、無理に姿勢を正そうとしても、逆に無駄な力みを生じさせパフォーマンスは低下する可能性もあります。
人間には適切に力が入る部位と脱力しておかなければならない部位があります。
それを専門家のアドバイスなしで習得することは非常に困難です。
姿勢についてお悩みの方は下記フォームよりご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。